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続・ゲームの『ピクセルアスペクト比』について真摯に考える
「グラフィックデザイナーさんの意図。不自然でないことが生む高揚感」
 


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PCエンジンエミュレータ「Ootake」を製作しています中村です。

以前の記事『ゲームの「ピクセルアスペクト比」について真摯に考える』の続きとなります。

前回は理屈を中心とした内容でしたが、
今回は、実際にいくつかのゲームセンター(ブラウン管ゲームが置いてあるお店)を回り
各店がどのような画面調整をしているのかを調査・確認してきました。

自分の回った範囲では、
2000年以降に開店したお店では「4:3画面いっぱいに拡げるMAME方式」での調整。
1990年代からの老舗のお店では「端に黒帯も配置してアスペクト比重視」での調整が主でした。

それぞれどんな調整だったのかを、もう少し細かく見ていくことにしましょう。


2000年以降に開店したお店の「4:3画面いっぱいに拡げるMAME方式」

西暦2000年以降、特に2005年頃にはYouTubeやニコニコ動画も始まり、MAME(アーケードゲーム基板のエミュレーター)でプレイされた動画が数多く出回り始めてしまいました。

実機基板よりも、MAMEでプレイされた動画のほうが断然多いため、いつからかゲームのアスペクト比(縦横比)もMAMEがスタンダードになってしまった感があります。

そのMAMEの画面調整は、基板が発信する黒帯情報を無視し、とにかく4:3の画面いっぱいまで引き伸ばしてしまう調整方法です。

この調整方法は、画面いっぱいに映るため一見では気持ち良いです。

しかしながら、キャラクターのアスペクト比が崩れてしまうゲームが多いため、グラフィックデザイナーさんの意図とは違った見え方でプレイヤーはゲームを遊ぶことになります。


↓アスペクト比が違うと、プレイ感にも「小さくない違い」が現れる。
  このシーンでは、炎龍に包まれる閉塞感に違いが感じられる。


出典:『グラディウス オリジン コレクション』(© Konami Digital Entertainment)

↓おにぎりっぽい見た目が可愛い「カバードコア(7面ボス)」。
  4:3画面いっぱい表示だと、縦向きのカバーだけが縦長になって不自然に。
  プレイしていると、回転の動きの自然さに大きな違いが感じられる。

出典:『グラディウス オリジン コレクション』(© Konami Digital Entertainment)


実はMAME方式には利点もあります

・あまり考えずに画面端まで引き伸ばせば完了なので、調整する店員さんへの負担が減る。
・この方式なら新しい店員さんも調整をマスターしやすい。

ゲームセンターを経営する際のコスト削減につながります。
でもその調整だと、デザイナーさんが丹精込めて描いた絵が歪んでしまうことになるのです。

次の章では、その助け舟となる画面端の黒帯の存在について考察します。
 

黒帯は陰の立役者~キャラクターの歪を抑える~

多くの台をMAME方式で調整しているお店でも、その中で「例外的に黒帯調整しているゲーム」もわずかにありました。

↓そのうちの1台。『スターフォース』
  このゲームを3:4(縦画面)いっぱいまで引き伸ばすと、
  さすがに店員さんも縦長すぎると気がつかれ、上側の黒帯は無理に埋めず
  正しいアスペクト比(テスト格子パターンを正方形)に調整されたのだと思います。

出典:『スターフォース』 (©Tehkan) 画像をクリックすると、大きな画像も見られます。

SNSや掲示板などで、「黒帯なんてなかった。4:3画面いっぱいが正しい」と、頑なに主張する方々を見かけました。

しかし、上の写真が示しているように、実際に複数のお店で黒帯がありました

ブラウン管の端からベゼルに掛けて「幅広く同じ黒色」になっているため、ゲーセンの筐体でゲームをプレイする人が「黒帯の有無」を認識することはまずありません。

だからその方々の記憶にもなく、「黒帯なんてなかった」と主張しておられるのでしょう。
(この状況で、「黒帯がなかったことを覚えている」と断言するのは、さすがに無理があります)


ご覧のように、実際に黒帯は存在しました。特に1980年代は、ブラウン管の性能が今より劣り、画面端は歪みやすかったため、ゲーム基板も端は使わない(黒帯にしておく)ゲームがほとんどだったのです。

・仕様上は横320ドット使える → 端は歪むので288ドットだけを表示範囲としていた。
・仕様上は縦240ドット使える → 端は歪むので224ドットだけを表示範囲としていた。

1980年代のアーケードゲームの「スペック表上の解像度」に、320x224, 288x224, 256x224 が多いのはこの理由です。

喫茶店や駄菓子屋では、頻繁な調整ができなかったため、欲張って画面端まで引き伸ばして埋めてしまわず、ある程度黒帯を残した調整になっていたと考えるのが自然です。
※ブラウン管は輸送や時間経過で表示範囲がだいぶズレてきてしまうため


続いて次の章では、なぜゲーム基板の説明書などに「具体的なブラウン管の細かな調整方法」が記載されていなかったのかについて検証していきます。
  
 
アスペクト比調整は「正円を正円に、正方形を正方形に」が暗黙の了解

ブラウン管テレビは、「モノスコープパターン」と呼ばれる調整用テストパターンを使って、アスペクト比(縦横比)を調整していました。

このようなテストパターンは、テレビ局が早朝の非放送時間帯にも表示していました。

↓古くからあるモノスコープパターン。正円、格子正方形などで構成される


画面とにらめっこしながら円が正円に格子が正方形に映るようにツマミを回して合わせると、画面を正しいアスペクト比表示に調整できました。


当時のゲーム基板にも、起動時に「調整用の円や格子パターン」が表示されるゲームが存在し、テストモードで格子(クロスハッチ)を表示できるゲームは数多くありました。

↓彩京の『ストライカーズ1945 II』
  丸が正円に見えるように調節せよとのメッセージも表示される

出典:『ストライカーズ1945 II』(© 彩京) 基板持ちの方にキャプチャしていただきました

↓『ゼビウス』の格子表示。おそらく円を表示するメモリの余裕はなかった。
  これを正方形に合わせるとキャラは歪まない。基板の信号も元々正方形。

出典:『Windows95/98版 ゼビウス(メーカー:メディアカイト)』(© Bandai Namco Entertainment Inc.)


円で合わせる彩京のゲーム以外には、ゲーム基板の説明書に、アスペクト比の調整方法を詳しく書いてあるものは無かったようです。

「正方形に合わせよ」「画面端まで伸ばせ」など、具体的な指示が書いてあるものは自分が見た限りではありませんでした。

色々探した所、ソニーのブラウン管テレビの説明書に、1つそれらしき記載を見つけました。

↓『ソニーのWEGA(ブラウン管テレビ)の説明書』
  縦横振幅調整ツマミの説明で、楕円を正円に正して調整する図が明記されている

出典:『WEGA 取扱説明書』(© SONY)

自分が見た限りですが、他のテレビの説明書は、どれも「歪みを正す」とだけ書かれていて具体的な調整方法については記載されていませんでした。

「歪みを正す」は、縦横の長さの歪みを正す意味(アスペクト比調整)も含まれています

丸いものが丸く見えるように、正方形のものは正方形に見えるように、アスペクト比を調整することは、テレビ映像の世界では当たり前の方法(暗黙の了解)ですので、いちいち記載されていないのだと考えられます。


前回も書きましたが、例外が一つだけあり、カプコンのCPS基板の格子表示がそれに当たります。これは正方形に合わせてもアスペクト比は合いません。それについては、また後日、別の記事で詳細を書ければと思っています。
 
 

名作の魅力を後世へ伝えるために

当時も今も、ゲームセンターの調整方法はそれぞれまちまちで、店側の自由な方針で決められているのが現状です。

例えば初代『魔界村』も、近年のゲーセンではだいぶ横に太ったアーサーになってしまっているお店も見かけます。当時テーブル筐体や駄菓子屋で遊んでいた魔界村のアーサーは、間違いなく、もう少しスリムでした。

歪んだ『グラディウスII』や『魔界村』を見かけると、デザインが崩れてしまってもったいないなあという気持ちになります。インカム(売上)も、アスペクト比を合わせた調整にしたほうが、デモ画面を見て100円玉を入れてみようと思う人も多いのではないかと推測します。


現代ゲーム機への復刻版もその多くが、同様にMAMEを参考にしすぎてしまっている感が否めません。YouTubeのアーケードゲーム動画は、4:3画面いっぱいに引き伸ばされた映像で溢れかえっています。

それは、デザイナーさんが丹精込めて作ったゲーム作品にとっては良くない状況だと思います。

テレビや映画、漫画の作品のように、ゲームの作品もアスペクト比の決め方について真摯に向き合ってもらえたら、ゲームの文化も、今よりもっと素敵なものになっていくのではないでしょうか。


ただ、ひとつ光明が見えた部分もありました。グラディウスシリーズなど基板所有者の方々は、そのほとんどが4:3いっぱいに伸ばしてしまわず、デザイナーさんの意図と思われるアスペクト比でプレイされていたことです。
※動画サイトを「グラディウスII 基板」等で検索すると出てきます。
 YouTube検索:「グラディウスII 基板」 YouTube検索:「GradiusII PCB」


今回の記事中に、MAMEの4:3表示への批判の記述を多く書いてしまいましたが、MAME自体を批判する意味ではありません。MAMEは言うまでもなく素晴らしいエミュレーターです。このアスペクト比の問題については、特に海外でもたびたび議論が行われているようですので、今後の改善に期待しています。


「ゲーム」というと特に昔は馬鹿にされていた部分もありました。でも自分は、映画や漫画のようにきちんとした形で後世に残して名作を伝えていくべき素晴らしい文化だと思っています。

今後も、このアスペクト比の件は真摯に検証を続けていきます。もう少し決定的な根拠や賛同など得られる状態になりましたら、メーカーさんやゲームセンターさんのほうにもお知らせできれば幸いです。
 


2026.3.21 Written by Kitao Nakamura.


前回の記事
『ゲームの「ピクセルアスペクト比」について真摯に考える』も御覧ください。
多くの基板から出る信号が正方形なことの根拠や
ピクセルアスペクト比の計算方法など


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